「キャッシュアウト」という言葉は、文脈によってまったく異なる意味を持ちます。財務・会計の場面では「企業の現金流出」を指しますが、M&Aや会社法の場面では「少数株主の強制的な締め出し」を意味します。この記事では、それぞれの意味の違いから、会社法におけるキャッシュアウトの手法・メリット・デメリット・実際の事例まで、わかりやすく解説します。

結論
キャッシュアウトとは?2つの意味を即答

財務用語:企業活動(仕入れ・設備投資・借入返済など)により現金が外部に流出すること。
会社法用語(M&A):現金を対価として、少数株主を強制的に会社から退出させること(スクイーズアウトとほぼ同義)。M&A文脈では②の意味で使われることが多い。

キャッシュアウトとは

キャッシュアウト(Cash Out)は、使用する文脈によって意味が大きく変わる用語です。まず2つの意味を整理しましょう。

財務・会計用語
現金の流出
商品仕入れ・設備投資・借入金返済などの企業活動によって、企業の現金が外部へ出ていくこと。
会社法・M&A用語
少数株主の締め出し
現金を対価に、少数株主を強制的に会社から退出させる手続き。スクイーズアウトとも呼ばれる。

①財務・会計用語としてのキャッシュアウト

財務の世界では、企業から現金が外部に出ていく動きを「キャッシュアウト」と呼びます。反対に現金が入ってくる場合は「キャッシュイン」、その両方を合わせた流れが「キャッシュフロー」です。

たとえば、仕入れ代金の支払い・工場への設備投資・銀行への借入返済などが、財務上のキャッシュアウトにあたります。

キャッシュフロー計算書との関係

財務諸表の一つ「キャッシュフロー計算書」には、営業CF・投資CF・財務CFの3区分があります。各区分でのキャッシュアウト(支出)を把握することで、企業の資金繰りの実態がわかります。

②会社法・M&Aにおけるキャッシュアウト

M&Aや事業承継の文脈で「キャッシュアウト」といえば、ほぼ間違いなく「少数株主の締め出し(スクイーズアウト)」を指します。

2014年(平成26年)の会社法改正により「株式等売渡請求」制度が新設され(2015年5月施行)、議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、少数株主に対して株式の売り渡しを強制的に請求できるようになりました。

キャッシュアウトとスクイーズアウトの違い

結論として、会社法文脈ではキャッシュアウトとスクイーズアウトはほぼ同義です。野村証券やSMBC日興証券などの金融機関も、両者を同じ概念として解説しています。厳密には「現金(キャッシュ)を対価にして締め出す(スクイーズアウト)」というニュアンスで使い分けることもありますが、実務上は互換的に使われます。

キャッシュフローとの違い

用語 意味
キャッシュフロー 企業活動における資金の流れ全体(流入+流出)
キャッシュアウト(財務) 資金の流出のみ
キャッシュイン 資金の流入のみ
キャッシュアウト(会社法) 少数株主の強制的な退出手続き(スクイーズアウト)

会社法におけるキャッシュアウトの目的

会社法上のキャッシュアウトは、なぜ行われるのでしょうか。主な目的は以下の2つです。

意思決定の迅速化

M&Aによって子会社化した場合でも、少数株主が残っていると、株主総会の開催や少数株主権の行使によって経営判断が遅れる可能性があります。キャッシュアウトによって少数株主を排除し完全子会社化すると、株主総会手続きの省略や迅速な意思決定が可能になります。

完全子会社化・非上場化のための手段

上場企業をTOB(株式公開買付)で買収した後、全株式を取得して完全子会社化・上場廃止する場面でキャッシュアウトがよく活用されます。TOBに応じなかった少数株主の株式を強制的に取得することで、100%子会社化を完結させるという流れです。

少数株主がいるとどんな問題が起きる?

少数株主は「反対株主の株式買取請求」「差止請求」「株主総会決議取り消しの訴え」などの権利を持ちます。経営に支障をきたさないよう、完全子会社化前に整理するのがキャッシュアウトの目的です。

キャッシュアウトの手法

キャッシュアウトには主に4つの手法があります。必要な株式保有比率や手続きの複雑さがそれぞれ異なります。

1
株式等売渡請求
議決権の90%以上が必要
2014年の会社法改正で新設された制度。総株主の議決権を90%以上保有する「特別支配株主」が、取締役会の承認のみで他の全株主に株式の売渡を請求できます。株主総会決議が不要なため、最も迅速にキャッシュアウトを実行できる現在の主流手法です。
2
株式併合
議決権の2/3以上が必要
複数の株式を1株に統合する手法。たとえば「10株を1株に併合」した結果、1株未満になった少数株主は株主としての権利を失い、端株に対して現金が支払われます。株主総会の特別決議(2/3以上の賛成)が必要ですが、比較的シンプルな手続きで実行可能です。
3
全部取得条項付種類株式
議決権の2/3以上が必要
株主総会の特別決議により、会社が全株式を強制取得できる「全部取得条項付種類株式」を設定し、少数株主への対価を現金とする手法。定款変更から取得まで複数の株主総会決議が必要なため、現在は株式等売渡請求が整備される前の旧来手法として位置付けられます。
4
株式交換の応用
子会社を持つ会社が対象
子会社の少数株主が持つ株式を、まず親会社株式に交換し、その後親会社で株式併合を実施することで少数株主を1株未満にする手法。または現金対価で直接交換することもあります。子会社の完全子会社化を目的とした場面で有効です。

手法比較表

手法 必要な持株比率 株主総会 特徴
株式等売渡請求 議決権の90%以上 不要(取締役会のみ) 最も迅速・現在の主流
株式併合 議決権の2/3以上 特別決議が必要 シンプルで汎用性が高い
全部取得条項付種類株式 議決権の2/3以上 特別決議が複数回必要 手続きが複雑・旧来手法
株式交換の応用 子会社株主に対して 特別決議が必要 子会社の少数株主に有効

ハイライト行は現在の主流手法

キャッシュアウトのメリット・デメリット

メリット
  • 意思決定の迅速化(株主総会手続きの省略)
  • 株主管理・法的対応コストの削減
  • 短期投資家の圧力がなくなり、長期目線の経営が可能
  • 完全子会社化・上場廃止の実現
  • 少数株主の同意不要で手続きを完了できる
デメリット・注意点
  • 手続き全体に1〜2ヶ月以上かかる
  • 少数株主への対価支払いに多額の資金が必要
  • 株式取得額の妥当性が問われる(価格不服で訴訟リスク)
  • 事前に一定比率(2/3または90%)の株式取得が必要
  • 株主総会の招集通知は原則14日以上前の公告が必要

訴訟リスクについて

少数株主はキャッシュアウトの対価(買取価格)に不満がある場合、裁判所に売却価格決定の申し立てを行うことができます。株式等売渡請求の場合、この申し立ては取得日の20日前から取得日の前日までの間に行う必要があります。実際に過去の事例(カネボウなど)では、裁判を経て価格が引き上げられたケースもあります。キャッシュアウトを実施する際は、公正な価格設定と専門家(弁護士・M&Aアドバイザー)への相談が不可欠です。

少数株主が持つ対抗手段

①反対株主の株式買取請求 ②差止請求 ③株主総会決議取り消しの訴え ④裁判所への売却価格決定の申し立て(取得日の20日前〜前日まで)。これらのリスクを踏まえたスケジュール管理と価格設定が重要です。

完全子会社化後の税務メリット

キャッシュアウトで完全子会社化を達成すると、税務上のメリットも生まれます。親会社と子会社がグループ通算制度の対象となり、グループ内の黒字企業と赤字企業の損益を通算して法人税の納付額を抑えることが可能になります。ただし、グループ内に資本金1億円超の大法人が1社でもあると、グループ全体で中小法人向けの税制優遇が受けられなくなる点には注意が必要です。税務上の影響は事前に税理士等の専門家に確認することを推奨します。

キャッシュアウトが行われた事例

実際にキャッシュアウトが実施された国内の代表的な事例を紹介します。

パイオニア 2019年 株式併合

カーナビ・カーオーディオ事業の低迷により業績が悪化したパイオニアは、2018年に香港の企業再生ファンド「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)」の傘下に。2019年に株式併合によるキャッシュアウトで完全子会社化し、上場廃止となりました。

雪国まいたけ 2015年 TOB+キャッシュアウト

過去の不適切な会計処理の発覚を機に経営混乱が続いた雪国まいたけは、2015年に米国の投資ファンド「ベインキャピタル(BCJ-22)」によるTOBと続くキャッシュアウトで完全子会社化。同年6月に上場廃止となりました。

LINE × Zホールディングス 2021年 株式併合

ソフトバンク・韓国ネイバーによるLINEへのTOBで一部少数株主が応じなかったため、2021年1月に株式併合によるキャッシュアウトを実施。全株取得を完了し、Yahoo! JAPANを傘下に持つZホールディングスとの経営統合が実現しました。

日本生命 × 三井生命 2015〜2016年 株式等売渡請求

日本生命による三井生命保険の買収において、TOB後に株式等売渡請求の方法でキャッシュアウトを実施。三井生命保険を完全子会社化しました。両社の合併は行わず、ブランドをそれぞれ維持する形での経営統合となっています。

佐渡汽船 2022年 株式併合

みちのりホールディングスの傘下入りと同時に、普通株式27万株を1株に併合する株式併合を実施。端株の取得価格は1株あたり30円(発表前日の終値202円に対し大幅な低水準)と設定され、JASDAQの上場を廃止しました。

よくある質問(FAQ)

キャッシュアウトとスクイーズアウトは何が違いますか?

会社法・M&A文脈では、両者はほぼ同義です。「スクイーズアウト(Squeeze Out)」は「絞り出す・締め出す」という英語表現で、少数株主を強制的に退出させる行為を指します。一方「キャッシュアウト」は「現金(キャッシュ)を対価に締め出す」というニュアンスを持つため、対価が現金の場合に使われる表現です。野村証券やSMBC日興証券など主要金融機関も両者を同義として扱っています。

キャッシュアウトを行うのに必要な株式保有比率は?

手法によって異なります。現在の主流である「株式等売渡請求」は議決権の90%以上が必要です。「株式併合」「全部取得条項付種類株式」は2/3以上(株主総会の特別決議を通せる比率)あれば実行可能です。そのためM&Aでは、まずTOBで3分の2超または90%超の株式を取得し、その後にキャッシュアウトで残りを取得するという流れが一般的です。

少数株主はキャッシュアウトを拒否できますか?

キャッシュアウトは強制的な手続きのため、少数株主が拒否することはできません。ただし、対価の価格が不当と考える場合は、裁判所に売却価格の決定を申し立てることができます(反対株主の株式買取請求・差止請求なども利用可能)。実際にカネボウの事例では、裁判を通じて当初の買取価格が引き上げられた経緯があります。

キャッシュアウトの手続きはどのくらい時間がかかりますか?

手法によりますが、一般的に1〜2ヶ月以上かかります。株主総会の特別決議が必要な手法では、基準日設定→公告(14日以上前)→招集通知(14日以上前)→株主総会開催という流れが必要です。最も迅速な「株式等売渡請求」でも、対象会社での承認・通知・公告などの手続きが必要なため、相応の準備期間を見込む必要があります。

キャッシュアウトの対価は必ず現金ですか?

「キャッシュアウト」という名称のとおり、会社法上の手続きでは原則として現金が対価となります。ただし「株式交換の応用」では、子会社の株式を親会社の株式に交換(現金以外の対価)した後、株式併合で少数株主を締め出す方法も使われます。いずれにせよ最終的に少数株主が受け取る対価の公正性が問われる点は共通です。

まとめ:キャッシュアウトのポイント

  • キャッシュアウトには「現金流出(財務用語)」と「少数株主の締め出し(会社法用語)」の2つの意味がある
  • M&A文脈では後者(=スクイーズアウト)の意味で使われることがほとんど
  • 主な手法は4種類。現在は「株式等売渡請求(議決権90%以上)」が最も迅速で主流
  • 完全子会社化・意思決定の迅速化が主な目的。一方、資金準備と訴訟リスクに注意が必要
  • 実施に際しては、公正な価格設定と弁護士・M&Aアドバイザーへの相談が不可欠

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